『ユーカリの木陰で里の行』


ブログ『ユーカリの木陰で里の行』

本や執筆、チベット密教やスピリチュアルな話、家族や愛犬、メルボルンの暮らしなんかをゆぅらりと綴っています

 

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コロナ禍のハロウィーン

2020年10月9日の日記から


ここメルボルンもコロナ禍の真っ只中で、

相変わらずロックダウンが続いています。

 

それでも夜間の外出禁止令は解除されたので、

真夜中に頭上を旋回する監視用ヘリコプターの音を

聞かなくなっただけでも安眠できて嬉しい。

まあ、エクサの1日の許容時間が1時間増えたくらいで

未だに外出規制、厳しいし、

お店の大半は閉まっているし、

自宅から半径5キロ以上は動けないのだけど。

でもって罰金、高いし、

パトロール中の警官、多いし。

 

ちなみに我が家の5キロ圏内、

南側は海上に入ってしまうため事実上の面積は

5キロ圏内よりもだいぶ狭くなっちゃって、無念。

 

学校の方は大学1年生になった娘も、中2の息子も

今もオンライン授業が続いています。

愛犬ポポちゃんとチャー君は

もはや置いてけぼりにされることもなく

いつも家族と一緒で嬉しそうだけど、

いつまで続くことやら、この状態・・・。

 

加えて我が家は、

洗濯機の栓が外れて起きた2か月前の洪水の後始末に追われ、

未だに1階は段ボール箱の山に占拠されています。

ウォーキングワードローブと亡き夫の部屋など

無残にカーペットが外されたままコンクリートの剥き出し。

幸い保険に入っていたので、保険会社が手配してくれた

業者さんが定期的に出入りしてくれてはいるものの、

果たして年内に片付くものやら?

 

こんな状態で、気がつけは10月に入っていました。

10月といえば、ハロウィーンもすぐそこに。

 

ハロウィーンのことはブログに書いたりもしたけれど、

2015年「ハロウィーンの夜に緊急入院」

2010年「雨のハロウィーン」

2009年「そうして今年もハロウィーンの夜」

2008年「ハロウィーンの夜とスィーツの朝」

まだブログに書いてなかったけれど、

去年のハロウィーンが苦い想いとともに蘇ってくる。

 

今回はその話を少し―




去年のハロウィーンは、上の子が大学受験の真っ只中で、

既に前日からVCE、ビクトリア州の試験が始まっていた。

さすがに「Trick or Treat」やパーティーなんて状況ではなかったけれど、

家でハロウィーンディナーを楽しむことにしていました。

 

娘の方はその日は試験も入っていなかったので、

下の子が中学校から帰って来ると

子どもたちと一緒にハロウィーン・ディナーを作り始めた。

子どもたちが小さかったころにネットで見つけて、

いつのまにか我が家のハロウィーンメニューになっていた定番を。

にしても、子どもっぽ過ぎか・・・。

 

今年はプチお化けケーキを新メニューに加えて(結局、失敗したけど)、

わいわいがやがや作っていたら、

その電話がかかってきた。

夫の臨床実験治療を担当していたシドニーの医師からだった。

 

夫は2017年に癌を患っていることがわかってから、

ホルモン療法や化学療法などの治療を続けてきた。

癌がわかったときのことはブログに書いたけど

(⇒2017年7月「メルボルンの冬空から、出雲大社に―」)

その後、治療中の詳細は周囲に話したくないという本人の希望で

私もあまり触れないようにしていた。

子どもたち、とりわけ息子が私のブログを時々読んでいたので

心配させたくなかったし。

 

とにかく夫は治療を続けながらも仕事を続け、

初めに自ら宣言したとおり

「ふつー」の生活を極力続けようとしていた。

 

とはいえ10段階評価で9~10と超パワフルな癌細胞だったため

2年もしないうちに国民保険で認可されていた治療法は

全てやり終えてまった。

それにしてもその間、黙々と生活を続けていた夫。

改めて思い返してもスゴイ!と、思う。

 

夫の主治医はすかさず放射性核種内用療法を勧めてくれた。

癌細胞を直接狙い撃ちするという

いわゆるピンポイントの放射性治療。

 

一般に放射性療法も副作用が強いといわれているけれど、

これは副作用もほとんどなく、

なかには治ってしまう人もいるそうで。

ならばぜひトライしてもらいたい!と願っていた治療法だった。

とはいえ保険が効かないのでコストが・・・

 

けれど病院や大学の臨床試験に参加すれば

コストもかからないとのこと。

メルボルンで実施されていた試験的治療には

あいにく漏れてしまったのだけれど、

運よくシドニーのそれに入ることができた。

研究のための治療なので誰でも入れるわけではなくて、

癌の進行度合いや治療歴、

本人の年齢など細かい設定が決められているため

入れたのは、ほんと幸運でした。

 

夫はその1回目の治療を8月末に受けて、

2回目を10月半ばに受けた。

6週ごとに計6回受けることになっていたので、

次は11月末が予定されていた。

 

そんな夢(?)の治療だったけど、

蓋を開けてみると、

夫は化学療法をしていたときよりも具合が悪そうだった。

治療の副作用はほとんどないと聞いていたので、

癌の進行のせいだろう・・・と私は解釈したのだけれど。

 

加えて、本人の副作用はなくても

周囲への副作用が思いのほかあって・・・。

治療後3日間は成長期にある子どもたちとの接触は

制限されると聞き、

私は内心、子どもたち、

とりわけ13歳の息子のことを心配してしまったのだった。

 

そのハロウィーンの夜の電話を夫が取ってからも、

私も医師にいろいろと聞いてみたいことがあったので

二人の話を聞いていた。

けれど途中で

その必要はもうないのだと悟る。

 

医師は、血液検査や夫の検査結果の数値を告げながら

治療経過について報告した。

それらの数値は全て医師団が望んでいた数値とは真逆のものだ、と。

夫の数値は、医師団が驚くほど急激に悪化していたのだった。

 

主任医師や他の医師たちにも相談したところ

全員が治療の即刻中止に賛成したという。

非常に稀なことではあるけれど、

この治療は本人にとって逆効果であった、と。

 

その後も医師と夫の会話は続いていたけれど、

私はとてもその先を聞く気にはなれず、

受話器を置いて、キッチンに戻った。


その日は10月のメルボルンにしてはいいお天気で、

5時を過ぎたというのにまだ暑いくらいだった。

子どもたちはキッチン仕事を投げ出し、ではなく切り上げて

プールに泳ぎに行ってしまっていた。

 

私は散らかったキッチンで、

フランケンシュタインのソーセージロールや

お化けのカレーライスやゆで卵、

パンプキンヘッドのフォンデューを完成させるために

料理の続きに取り掛かった。

とてもハロウィーンの気分ではなかったけど。

楽しみにしている子どもたちの

ハロウィーンの夜を台無しにしたくはなかったから。

何よりも、受験を控えた娘を守りたかった。

 

このまま何事もなかったかのように、

せめて娘の受験が終わるまでは

私も「ふつー」に生活しようと改めて決意していた。

 

30分ほど経ったころ、夫がキッチンにやって来た。

カウンターに座って、料理をしている私に

放射性核種内用療法が中止になったことを告げた。

 

自分がそのとき何を言ったのか、覚えていない。

夫も詳しい話はしなかったし、

感情的なことは何も言わなかった。

彼はただ黙ってキッチンカウンターに座って、

ソーセージにフランケンシュタインの包帯を巻き付ける私の手元を

ぼんやりと眺めていたのだった。

 

暫くすると夫は

「疲れたから休む」と、寝室に行ってしまった。

 

プールから出てきた子どもたちに

ダディンのシドニーでの治療が中止になったことと

本人、疲れて休んでいることを伝えた。

そのころ夫は寝室で独り休むことが多かったので、

子どもたちも別段不審にも思わなかったようで。

治療の中止が何を意味するのかも良く判っていないようだった。

 

結局、3人と愛犬2匹でハロウィーンの夜を祝った。

ダディンは、途中で覗きに来るかと思ったけれど、

その夜は全く顔を出さなかった。

 

ダディンのこともさることながら、

黒マントを羽織って無邪気に微笑む子どもたちが

私には不憫に思えていた。

 

結局のところ、治療の中止が何を意味するのか

私自身も明確には理解していなかったのだ。

医師免許を持つ夫にはわかっていたのかもしれないけれど。

 

思えばたぶんあの夜が、

夫の終末の始まりだったのだと思う。

命の炎は既に消えかけていたのでした。

 

あれからそろそろ1年。

落ち着いたとは言えないけれど、

夫のそれからのことを書いてゆこうと思います。

 

 

2020年のハロウィーン。

今年はコロナ禍でソーシャル・ディスタンスを保つため、

ハロウィーンパレードが禁止される場所も多いだろうな。

ビクトリア州では間違いなく「Trick or Treat」は違法とされて

(今も他者の自宅訪問は違法なの)、

ドラキュラや血みどろメークの努力もマスク着用で流れて、

つーか、マスクのドラキュラ化が必要になりそうです。

 

かなり沈んだハロウィーンの思い出を綴ってしまいましたが、

それでも

Happy Halloween!

皆様が思い出に残るハロウィーンの夜を楽しめますように。

 


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